皆様はじめまして。Dental PBRN Japan会長の角舘直樹と申します。
Dental PBRN Japanは、我が国の歯科医学研究の歴史に新たな1ページを刻むことを目的に構築された研究ネットワークです。

 私は歯科医師として診療を始めた頃、自身の診療上の疑問に答えるエビデンス(科学的根拠)が少ないと感じることがよくありました。例えば、根管貼薬でどの薬を選択するべきなのか、咬合様式はどうしたらよいのか、顎関節症に関する治療は何から行えばいいのかなど、正しい答えがわからない場面に多々遭遇しました。なかでも特に、「歯周病患者のモチベーションを高めて行動変容を促すにはどのようにしたらよいのだろうか」ということが気になったのですが、その疑問を解決する糸口となるような先行研究は見当たりませんでした。 

そのような経験から「診療上の疑問に答えるためには、歯科医師自身が研究を実践することが望ましい」という結論に至り、開業医の現場にて臨床研究を実施しました。実際に始めてみると、倫理委員会の手続きをはじめ、日本では臨床現場で研究を行いやすい環境ではないということを感じました。そのような折に、「Dental Practice Based Research Network」が欧米で構築されていることを知りました。日本でもこのような研究ネットワークを構築したいと切望していたところ、2010年度に武田科学振興財団からの助成を受けることができ、念願であったDental PBRN Japanの活動を開始いたしました。

国際的な研究ネットワークへ

Dental PBRN Japan (JDPBRN)は、2011年より米国政府機関AHRQに国際的なPBRNとして承認されています。そしてアラバマ大学、フロリダ大学を中心とする米国最大のPBRNであるNational Dental PBRNとの国際共同研究を行っています。さらに、2020年よりブラジルのサンパウロ州立大学とも共同研究を開始しました。これまでに、英文国際学術論文18編(2024年7月現在)をエビデンスとして発信しており、それらの成果を研究参加者である会員の皆様へフィードバックしています。このフィードバックを通して、日本全体あるいは海外の結果と比較することができ、ご自身の診療の再評価や振り返りにつながることと思います。

私たちは歯科医療者の皆様にDental PBRN Japanへの参加を通じて、診療をしながら研究を行うことの素晴らしさや楽しさをお伝えしたいと思います。 

日常診療における皆様の悩みが「臨床研究」へと発展し、その結果がエビデンスとなって日常の歯科診療を変え、ひいては医療制度や政策を動かすことになるかもしれません。診療上の「悩み」や「研究すべき題材」は診療の現場で働く皆様の中にしか存在していません。日々の診療現場には切実な研究テーマが数え切れないほどあります。あなたが小さな疑問と思っていることが、まだ研究が行われていない、重要な疑問かもしれません。  

ぜひDental PBRN Japanの研究に参加していただき、診療をしながら世界に向けてエビデンスを発信していきましょう。 

Dental PBRN Japan会長・研究代表者
九州歯科大学 臨床疫学分野 教授
角舘 直樹